一瞬の躊躇は、永遠に感じた。
トアノブに触れたとき、電流が流れたかのような錯覚まで起きた。

静かに扉を開けると、閉められたカーテンのせい薄暗い。
視線を寝台の流すと、ここを出たときと同じように、一人分の山があって。

音をさせず、近づく。
一歩、一歩。

心臓が、まるで頭の中にあるかのように、がんがんと響いている。
少しづつ、明確になっていく愛しい人の姿に、逃げ出したい気持ちと、抱きしめてしまいたい気持ちでいっぱいになった。

そうして。
寝台に近づいた。

 

寝台には目蓋を閉じて、猊下は小さな呼吸を繰り返していた。
先程より、少し顔色は良くなっているが、以前と頬は白くなっていて。

そっと、唇に指をふれさせると、冷たく濡れていた。

 

「…………?」

唇からの振動に、指を跳ね除けると、閉じていた瞳が震えた。
ゆっくりと目が開いていく。

現れたのは、漆黒の瞳。
目覚めきっていないのか、ぼんやりと見つめられて。
幼くも感じる瞳が、徐々に深さを増していく。
その中に理性が灯り、目の焦点があいはじめ、最後には大人びた理知的な瞳になって。

まるで、蝶の羽化を見るような変化に、思わず、目が奪われた。
息を飲み込み、じっと見つめてしまう。

「ヨザ?」

名前が呼ばれる。
深い、深遠さを伴う、漆黒の瞳で。
じっと見つめられる。
拒絶もなく。嫌悪もなく。
ただ、自分だけを。

 

「……よざ?」

シーツを縋るように握り締め、その場に膝をついた。
噛み締めても零れ落ちそうになる感情を押さえ込み、ぐっと唇を噛み締めた。

「貴方を------------」

声が震える。
息が出来なくなる。
溢れ出る-------------愛し過ぎて切なさに。ただ、苦しくて。

 

「貴方を愛しています」

 

振り絞って出した言葉。
シーツにぽたり、ぽたり、と雫が零れ落ちた。

 

 

 

音のない森8

 

 

 

 

告げた言葉は、室内を微かに響き、そして、反響もなく消える。
洩れそうになる嗚咽を堪え、零れ落ちた涙がシーツにしみこむのをじっと見つめた。

反応を見ることが怖くて顔を上げられない。
そのくせ、耳は、肌は、愛しい人の気配の動きをこと細かく捕らえようと際立っていて。
静寂が痛いほど心に突き刺す。
審判を下す、この世の唯一の人は、まだ、なんのアクションもしない。
何を言っているのだ、と思ったのだろうか。

ふ、と息をつくのを聞こえてきて、戦くように肩が揺れた。

「よく出来ました」

明るい声だった。--------掠れてはいたが。
思いもしないリアクションに、ゆっくりと顔を上げると、猊下は言葉と同じように、おどけた顔をしていた。

「げい……か…?」
「大体ね、100年以上生きてるのに、その言葉が後ってスマートじゃないんじゃない?」
「え? え?」

ナンナノダロウ、この展開は。
いつもと変わらない口調。
いつもと変わらない表情。
………自分が逃避した思考の中での事なのだろうか?

「とりあえず……」
「………っ?!」

ヒュッ、と音がした。
次の瞬間には、頬に鋭い痛みが走り、目にチカチカした。
殴られた……と気づいたのは、猊下が呻いた声で気付いた。

「猊下?!」

渾身の力を込めたのだろう。
体全体で繰り出したことで、無理された体に響いたようだ。
寝台に身を埋めて、衝撃に耐えている。

「……まったく、手加減無しだもんね。一発じゃ足りないよ」
「…………」

痛みが引いたのか、おどけるような表情をして、猊下は体を起こし、ベッドヘッドに腰かける。
自分がどうすればいいのかわからなくて、その場に立ち尽くすしか出来ない。
ただ、視線だけは猊下を見つめていると、くすり、と小さく笑われた。

「いいよ、それで許してあげる」
「……………」
「だから、いい加減、泣きやみなよ」

宥めるように優しく言われて、でも、動く事が出来なかった。
ずっと何も言わず立ち尽くす俺に、流石の猊下も訝しげな表情に代わった。

「ヨザック?」
「……………しまう…」
「何、聞こえないよ?」
「……また…してしまう……」

今、許されたとしても。

小さい声だったが、猊下には言葉もそしてその意味も理解したようだ。目が大きく開かれている。

好き、なのだ。この人が。
愛しているのだ。この人だけを。

暴力な行為を今回、許されても、次にしないとは約束できない。
今でさえ-----------気が狂いそうな激情が、ココロを渦巻いているというのに。

「いいよ」
「--------え?」
「いいよ」
「……猊下…?」

言われている言葉の意味がわからなかった。
軽く目を見張って見つめると、くすくす、くすくすと猊下は笑いだす。

「君は僕が好きなんだろう?」

一つ、頷く。
いや、好きと言う言葉では表せない。愛しているのだ。

「じゃぁ、いいよ」
「………いいの、ですか?」
「うん」

何故?
そう、問うつもりだった。
あんなにも泣かせたのに。あんなにも傷つけたのに。
そう、問いたかったのに。

「…………っ!」

なのに、体はその真反対の行動を起こした。
寝台に乗り上げ、まだ、蒼い顔をした少年を自分の腕に巻き込んだ。
急激な動きに痛みが走ったのだろう。また、うめき声が耳に響く。
だけど---------とめる事は出来なかった。

部屋に入り、目を開けたときから、欲情していたのだ。
今朝の事はまだ身に染みて覚えている。
震える睫毛を。最後にはしがみ付いていた指を。涙に濡れた瞳を。

目を開いたときから………もう、欲しくて欲しくて仕方なかったのだ。
愛していると心の中で叫び、、、脳味噌は彼が欲しいと貪欲になっていて。

「………いいん、、、ですか?」
「いいよ」

顎を上げさせて、目を合わせて問うた。
合わされた瞳は----澄み切っていて、濁りがない。
それどこかろか、口元には静かな笑みさえ浮かんでいて、何故か、自分が憐れなものに感じた。

「……どうしてです?」
「うん?」
「どうして、いいのですか?」

このまま、この瞳に吸い込まれてしまえば、楽になれるだろうか?

「まだ、わからない?」
「………?」
「僕がここまで言っているのに。まだ、わからないの、ヨザック?」

愉しそうな声だった。そして、揺るがない言葉。

何故、許されたのか。
これからの行為を許されるのか。

そこで、やっと自分の激情から抜け出し、思案した。
それもすぐ、止まってしまう。
だって。それは。つまり。でも。

ありえない答えにたどり着きそうになったから。
自分の都合のよい答えだけしか思い浮かばす、そのまま、その答えに浸って夢見そうになったから。

腕の中でおとなしくしている猊下の目を見つめる。答えを求めて。
だけど、ソコには、自分だけが写っていて、答えなんて全く、、、ない。

「猊下………」
「本当にわからないの?」

くすくすくすくすと笑い続ける。
その瞳には、いつもの悪戯な輝きが灯っていて、答えを教える気はない、と伝えている。

だから、言葉を紡いだ。

 

「……貴方を愛しているんです」
「うん」
「貴方が、、、欲しいんです」
「うん」

「答えを……………貴方の体に聞いていいですか?」

 

 

 

 

 

「うん、いいよ」

 

 

 

 

 


よくわからない展開になっていきました(わたわた
素敵にへたれに書けるのが愉しくて仕方ありません。
次はえろえろ!予定!!☆

お気に召されたら、どうぞよろしくお願いしますv → web拍手を送る

070806 あずま

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