まるで、映画を見ているようだった。
他人事のように。

高級なソファーに身を沈め、足を大きく組み、肘をついて、顎を乗せ。
見る事に、体は疲れなかった。精神も。心も。
共感することもあれば、反発する時もあり。
憤りさえ感じ事もあれば、同情に目を細めることもあった。

 

愚かな。

 

繰り返される日常。
こうして、映像として認知してしまっているのに、繰り返し傷ついて、生に抗う。
いっそのこと、同一人物だと認めてしまえば、後は気が狂うのを待つだけだったというのに。

そこまで理解して、口元から笑みが零れた。
そこまで理解しても、再び、自分は抗うのだ。
いいや、再び、ではない。
村田健としての生は一度きり。再びなんて、ありえない。

ただ、目的が一つなだけ。

創主を滅ぼす。
すべては、第二十七代目渋谷有利の為に。

 

………だけど、僕はそんなに強い人間ではなかったから。
4000年生き続ける事で、魂は欠けていっているから。

求める。何を?
欠けた魂を補えるものを。
飲み込まれそうになる自我を、失わないように。
必死に手を伸ばし、求める。
捕まえたら、離さない。離れることを許さない。
それはもう、僕の魂の欠片となっているのだから。

だから。

僕だけを求めて?
僕だけを見つめて?
僕だけのものになって?

キミの存在だけが。

 

僕を支えるのだから。

 

 

 

音のない森 6

 

 

ゆらゆらと、意識が揺れる。
まるで、湖面に落ちた葉のように。
ゆらゆら。ゆらゆらと。

そこは暗い闇の中。
揺れる。
ゆらゆら。ゆらゆらと。

その内、光が目蓋を刺激しだす。
体が、ふわり、と浮いたような感触だ。

揺れる。
ゆらゆら。ゆらゆらと。

 

そうして、目を開いた。

 

 

 

心地よい酩酊の後に訪れたのは、驚くほどの倦怠感と指先一つ動かせないほどの激痛。

「猊下?」

カーテンが引かれ、薄暗くされた室内。見覚えがない。
だが、聞き覚えのある心配そうな声に、ゆっくりと視線を向けた。
そこには、我が魔王の名付け親がひっそりと立っていた。
彼の兄のように、眉間に皺を寄せながら。

「何か飲まれますか?」
「もら………っ……」

声が掠れる。それと同時に喉がむず痒くて咳き込んでしまう。
咄嗟にウェラー卿は手を伸ばしたが、感ずるより早く、びくりと肩を揺らせた僕に、
すぐに腕を引っ込めた。困ったように微笑み、側に置いたグラスに手を伸ばす。

「……喉に優しい飲み物を用意しました。飲めそうですか?」
「ぅん……」

重たく痛みに苦しむ体をのそのそと起こす。
ウェラー卿は僕に触れないように、たくさんの枕を用意して、背中や腰にあてがってくれる。
そうして、準備した飲み物はお茶の一種みたいで、仄かにあがる匂いが感情を優しく包み、
少し温かく甘みのある味が、胸元に心地よく落ちてきた。
喉越しもよく、少しづつ、全部飲みきると、体の隅々が潤ったような感じになり、大きく息をついた。

「落ち着きましたか?」
「うん。……ここは?」
「俺の部屋ですよ」

まだ、喉はかすれたが、先程より声が出る。
ウェラー卿がグラスを受け取り、元に戻すのに、何気なく室内を見渡す。
そこには僕たち二人しかいない。
城の外の喧騒もどこか遠い出来事のように聞こえる。

「……陛下や眞魔廟には連絡しています」
「そう。……フォンブォルテール卿には?」
「今、ヨザックが」
「……………」

そうか。それで彼がいないのか。

「猊下」
「なんだい?」
「あまり………ヨザックを虐めてやらないでください」

これは異なことを。
片眉を上げ、問うように見上げると、ウェラー卿は涼やかな笑みを広げる。

「あれは理性をもった獣ではありますが、所詮、獣。
自分の欲望に勝てません。ご存知でしょう?」
「さぁ? 僕にはわからないな」

同じように、笑って答える。少し、大げさに肩を竦めて。
すると、相手も少し首をかしげて、困ったふうに笑い、

「……うそつきですね、猊下は」

小さな声で。………少し、あざ笑うかのように。
だから、僕も笑った。

「なんだい。君は僕の事がわかるというのかい?」
「いいえ。そういう意味ではないのですが……」

再び、困った風に笑うウェラー卿の腕を取る。
何か、とといたげな表情に、小さく笑い返す。

「……うそつき」
「……………」
「君も、、、、僕と同じ闇を持っているくせに」

瞳を覗き込んで。
静かに言い放つ。目を逸らさず。
驚きに軽く見張っていた目が、ふ、と和ませる。
そして、深い微笑が口元に広がる。深い、深い微笑が。

「……いっその事、君にしたほうが良かったかな?」
「だめですよ、猊下。落ちたくないんでしょう?」
「……堕ちる、かな?」
「まっさかさまですよ、貴方と俺ならね」
「そう?」
「そうです」
「そうか」
「踏ん張りたいから、貴方は選んだのでしょう?」

ウェラー卿が再び、二杯目のお茶を準備しだす。僕の声がかすれてきたからで、
本当に気の効く男だと思う。
手渡してきながら問いかけに、僕はくすくす笑い、一口、お茶をすする。

「そうだね。君も………揺るがない人を選んでいるみたいだし?」
「……まいったな。ばればれですか?」
「うん。僕だけにね」
「内緒ですよ?」

そうして二人、目を見合わせ、くすくす笑い合う。

「さ。もう少しお休みください。次に目覚めたら、呼びますから」
「うん。ありがとう、ウェラー卿」

まだ、身を苛む倦怠に、抗わず身を横にする。
丁寧な手つきで、ウェラー卿が寝台を整えてくれる。

「ベッドも占領して、もうしわけなかったね」
「いいえ、構いません。--------けど」
「けど?」

ベッドサイドのテーブルから食器を持ち上げたウェラー卿は、
見上げた僕に視線を合わせ、悪戯のような笑みを浮かべた。

「虐めてやらないでくださいね」

思わず、ぷ、と噴出してしまった。
そんな僕にウェラー卿が涼やかな笑みで見ている。

「そうだね。それは----------ヨザック次第かな?」

笑いを終わらせて答えた僕に、ウェラー卿も笑みを引っ込めさせ、入り口で深く頭を下げた。
そして、隙のない動作で、部屋から出て行く。

パタン、と閉じられた扉を見つめて、もう一度、息をついた。
そうして、瞳を閉じる。
気を静める作用も入ったお茶なのだろう。眠りに誘われる。
それに抗う事はせず、促されるまま、意識を落とした。

 

次に目を開けたら、そこにきみがいるだろう-----------。

 


裏題。腹黒対決(まつ
基本的に、この二人はこんな関係が好きv

イメージ的に、弟分のヨザをかばうコンとそれが気に食わない猊下タン。
決して、三角関係ではアリマセンからv(ぁ

お気に召されたら、どうぞよろしくお願いしますv → web拍手を送る

070130 あずま

 

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