激情の、本能のままに貪った。
痛みに気を失っても、離すことが出来なかった。
弱弱しく名前を呼ばれても、答えることが出来なかった。
流れ出す血を見ても、思いやることが出来なかった。

たたきつけた白い飛沫。
心臓から飛び出した独占欲。
ぐったりとした細い体は、ぴくり、とも動かなくなって。

震える指先で、そっと頬に触れた。
まだ、幼いラインを残した輪郭。
涙の後に、泥がついていて。

いや、顔だけではない。

土の上で揺さぶり続けた体、全部が汚れている。
それと重なるようにして、白濁した液が。
赤い、血液が。

---------------------無残な、姿に。

 

 

愛している。

愛している愛している愛している

貴方を。

貴方だけを。

 

 

「…………愛しています、猊下」

何故、一番最初に、そう、告げなかったのだろうか?

 

 

それが、すべてだというのに--------------------。

 

 

 

 

音のない森 5

 

 

 

 

朝一番の鳥が鳴く。
その前に起きて、シャワーを浴びて身支度するのが、いつもの事で。

その日の朝も、ウェラー卿コンラートはシャワーを浴びて、いつもの軍服に袖を通した。
当然、その頃にはメイド達も起きていて、朝の支度をしている途中だ。
時折、部屋の前を通る時もあるのだが。

コンラートは聞き覚えのある足音に、扉へ視線を走らせた。
それは聞き慣れた足音。もう長い付き合いである彼のもの。

ただ、足音が、重い。
足取りに乱れを感じる。

何が起きたのか、と、扉に足を向けたのと、ノックされたのが同時だった。
扉の向こうが、恐ろしいほどの沈黙が横たわっていて、コンラートは知らず、眉を潜めた。
ドアノブを握り、、、、、扉を開く。

「-----------------っ!!!」

そこにいたのは、グリエ・ヨザック。
腕の中に、見覚えのある高貴なマントで包まれたものを抱き。

誰、と聴くまでもなかった。
この--------------
元部下であり、、、、、、、、相棒が、この少年に捕らわれていることを知っていたから。
いつか---------------------こうなるだろう、と漠然と感じていたから。

意識を失った猊下を抱き、暗い瞳で沈黙を続けるヨザック。

それだけで、全てを悟った。

 

 

 

 

真っ白なシーツに身を沈ませ、猊下はこんこんと眠りについていた。
一通り、体を拭い、清潔な衣服につつんだが、涙の後は消えない。

時刻はもう、日があけて数刻。
日差しが地に降り注ぎ、風の強かった夜の残留を払拭している。
厳しい寒さに柔らかな温もりが朝を彩り、人々の目覚めも軽やかだ。
すでに朝食の準備がなされているのか、窓の外から微かに香ばしい匂いが入り込んでいる。

そんな城内と違い、この部屋はまだ分厚いカーテンに包まれ、夜の闇を残したまま。
寝台の側のランプが唯一の光となり、眠る少年の頬を照らしている。

 

部屋の前に人の気配が訪れる。
見知った気配に、ヨザックは振り返らない。
膝に両肘をついて、顎を乗せたまま。
じっと顔色の悪い少年を見つめていると、静かに扉が開いた。

「…………まだ、目は覚まされないのか?」
「…………………」

ヨザックは答えない。
問うた相手も軽く息をついただけで、足音を立てず、ゆっくりと寝台に近づく。

「陛下と眞魔廟には連絡しておいた。
 ----------グウェンに報告しにいかなくていいのか?」

相手…………コンラートはヨザックに並び、彼と同じように村田を見つめる。
元々、線の細い少年だった。
今は更に血の気が引いて、痛々しいほど、白い。
コンラートはヨザックにばれないように眉を潜めた。

 

語る言葉をもたなかったので、自然に二人して再び、視線を猊下に戻した。
呼吸は穏やかで、かけられた寝具が微かに上下している。
外の喧騒と三人の呼吸が響く中、深いため息が、室内に響く。

かたり、と小さな音が続き、コンラートは視線をヨザックに向けた。
肩を落とした幼馴染が立ち上がる。
ベッドにおいていた拳を震わせながら。
視線を、こんこんと眠る愛しいヒトを見つめながら。

「--------」

掠れた声が何かを語った。コンラートには聞こえない。
視線を落としたまま、踵を返した幼馴染に、コンラートは下唇を噛む。

すれ違いざまに、憔悴した肩に手を置いた。

暗い、暗い目が、うっすらと持ち上げられる。

「……………戻って来い」

必ず。

ここに。

万感の思いで言葉をかけると、微かに頷いたように見えた。
音を殺し、出口に歩く気配を感じながら、ヨザツクが座っていた椅子の側による。

扉が開く。
背後から視線を感じる。

振り返ってはいけないと思った。見てはいけないと。
ぱたん、と扉が閉まり、再び、部屋に沈黙が訪れた。

室内の空気を知らずに眠り続ける幼馴染の唯一の人を見つめる。
知らず、つめていた息が零れ落ちた。

 

 


一番、最初に考えていた構成に戻せました
前回、勢いで書きすぎて、わたわたしていたところです。

幼馴染の二人の関係の位置づけを考えきれていないので、
コンがどう声をかけるのか、想像できませんでした(ぱた

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070613 あずま

 

 

 

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