夜を、過ごす

 

 

 

 

「はろー。ウェラー卿」
「そこは俺のベッドですよ、猊下?」

陛下を寝室に送り、本日の夜勤者に一言伝えて自室に戻ると、猊下がいた。
俺の寝台に当たり前のように寝転び、うつ伏せになって脚をぷらぷらさせている。
手にはせんべえ。枕元に重たそうな本。
へらっと笑ってみせた猊下の笑顔に邪気しか感じない。

笑顔で返事しながら帯剣を外し、いつもの棚から酒を取り出す。
お気に入りのグラスに注ぎ、椅子に腰を降ろした。
それを悪戯笑みで見ている猊下。あきらかに何か企んでいる。

「ねー、ウェラー卿」
「どうしました?」
「浮気シヨ?」
「また、唐突な提案ですねぇ」

もう、ずいぶんこの企み系の元大賢者・現賢者に弄ばれているのだ。
その程度では驚かない。
さて、今回はなんの遊びなのだろうか。
どうせなら、ヨザックで遊んでくれれば、被害がこちらにないのだが。。。

あぁ、そうか。

「欲求不満なんですね、猊下」
「うん、一人でするのもメンドクサイし」

ぷらぷら足を動かしながら、にっこり笑う幼馴染のコイビト。
一人でするのがメンドクサイからと言って、浮気するに考えが飛ぶ突飛さがヨクワカラナイ。

さて、どうしよう。
ここは浮気をしようとしているこの高貴な人をコイビトにしてしまった幼馴染を哀れむべきか、
三ヶ月も任務で会えない状況にいる幼馴染のコイビトに同情すべきか。
それとも、暇つぶしに的にされた自分の不運を嘆くべきか。

「って事で、シようよ。大丈夫。僕には4000年のテクがあるからv」
「え。俺がされるほうなんですか?」
「当然だよ。僕、グリエちゃんに怒られるのヤだもん」

おぉ、ちゃんとコイビトに操立てするのか。
と、変な所で感心しながら、いまだに足をぷらぷらさせて遊ぶ猊下を見つめる。
俺がグウェンに怒られるのはいいのか。
いいんだろうな。猊下は対岸の火事が好きな方だから。

「エエト、光栄な申し出ですが、丁重にお断りしたいと思います。
俺には大切なコイビトがいますので」
「イイじゃない、減るものじゃないし!」
「減ります。主に俺の繊細な神経が」
「………ヘェ」

微妙な返事をする猊下をスルーして、二口目の酒を口に含む。
舌で転がすようにして舐め、少しづつ胃にいれていく酒だ。喉元が熱くなり、
胸元に落ちる軌跡までもがわかる。
そんな俺を猊下は顎をつきながら、見上げてくる。

ちなみに本日の猊下の格好は、大き目の白のシャツに素足だ。
滑らかな白い足が揺れるごとに、シャツのすそがめくれ、見えそうで見えない絶妙なチロリズムで。
頬を支える指は、ピンクの唇に触れていて、時折、まくれて赤い舌が見える。
見上げる瞳。何故か、眼鏡は外されていて、新鮮だ。
うつ伏せになっているせいで、シャツの隙間からは、ぷっくりとした美味しそうな果実が見えている。

とてつもなく据え膳である。しかも、4000年のテクつき。
陛下と並びしょうされるだけの美貌は、闇が支配するこの時間、更に磨きがかかっていて。
少し前の自分なら、イタダキマスをしてもいいかなっと思ったかもしれない。
据え膳、喰わなければ、オトコの恥。

だけど、このヒトの場合は、据え膳と思って手を出したら、こちらが喰われるという、
危険きまわりない危険人物なのだ。
じっと見つめているのに気付いて、猊下は、それはそれは魅惑的な笑みを浮かべてみせたが、それはそれは危険な笑みにしか見えなくて、にっこりと微笑み返すだけにした。

「うーん、やっぱり駄目かぁ」
「当然です。ヨザに殺されるのもグウェンに怒られるのも御免ですからね」
「ふーん」

ぷらぷらっと動く足に視線を流す。
猊下は諦めきれないようだが、無理に何かをしようとするわけではない。
ただただ、暇つぶしなのだろう。そう考えるとすごく可愛らしい。結局、ヨザが不在で寂しがっているのだから。

「なんなら、片手、貸しましょうか?」
「どうせなら、違う所がいいなぁv」
「俺、イタイの嫌いですからv」

へらっとした笑顔を爽やかな笑顔で右に受け流す。
すると、左からむっとした顔がやってきた。

「失敬な。僕は上手いよ?」
「失礼ながら、久しぶりでしょうから」
「ふん。4000年のテクは伊達じゃないよ?」
「……ちょっと気になっていたんですが、4000年前ですか?」
「うん。あの時の僕は眞王をひぃひぃ言わせてたからv」
「で、今はヒィヒィいわされている、、、と」
「おかげで眞魔廟に行くと、眞王が指差して笑うよ。……あいつ、実体もったら覚えていろヨ」

くふふふふ、と笑う元大賢者。
俺は心の中で眞魔廟に向かって手を合わせた。
多分、この賢者のことだから、一度、口にした事は飲み込まないだろうから。

「って、なんで僕はこんな事まで君に話しているだろう……」

ぷらぷらしていた足を止め、猊下は枕に突っ伏した。
自分の行動に自分らしくないものを感じているのだろう。
その姿にくすくす笑って、猊下に紅茶を出した。

「ヨザがいないからですよ、そんな事を話すのは」

差し出したカップを受け取りつつ、目を軽く見張った猊下は、ありがとう、と呟いて肩を竦めた。

「ヨザックのせいなのかい? これも?」
「えぇ、そうです。それに……」
「それに?」
「たまにはいいものですよ。そんな猊下も」

体を起こして、カップをすすり、ふぅと息を吐く。
俺の言葉にきょとんとして、歳相応の顔を見せ、、、、まいった、と呟きながら、猊下は苦笑した。

「たまには、かい?」
「えぇ、たまには」

だって、そんならしくない猊下を見るという事は。
結局、寂しくて憂鬱から来ているもの。
つまり。
素直ではない猊下が、ヨザを愛していると言っているようなものなのだ。
残念ながら、本人には見る事が出来ないけど。

「たまには、俺と夜更かしするのもいいでしょう?」

グラスを鳴らし、つまみを出してくると、猊下はやっと浮気を諦めたようだ。
そのままの姿であったが、俺の前の椅子に座り、ぺたり、と机に顎をつける。
そして、不遜にも見える微笑を浮かべる。その笑顔はいつもと同じ、大人びたものだ。

「そうだね。たまにはウェラー卿の愚痴を聞いてみるのもいいかもね」
「ははは。どうせなら、惚気を聞いて頂きたいんですが」
「え、ヤだ」

速攻、否定の言葉。
目を見合わせて、二人同時に声を出して笑った。

 

待つ時間が長いことを知っている。
それは、訪れる喜びの高揚と、寂しさに苛まれる不安のせめぎあいで。
待つ時間の切なさを知っているから。

今夜は陽気な会話で過ごすことにしよう。

今夜は-----------待つ事の憂鬱に浸って、夜を、過ごす。

 

 

FIN


意味なしヤマなしおちなし(ぁ
コンムラっぽいのを目指してみたんですが、普通に会話して終わりになってしまいました(…
でも、書いてて愉しかったvvv

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070621 あずま

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