これほどに、足が動かない時はなかった。
あの-------------死地に向かった時でさえ、踏み出す足は心強かったのに。

 

 

音のない森7

 

 

直属の上司への報告を済ませる。
ちょうど、そこには陛下と、自称婚約者もいたが、皆が緊張を孕んだ空気を持っていた。

自分の罪が暴かれているのか。

いや、それはないだろう。
コンラートが告げ口をするはずがないのだ。

入り口で叩頭し、何か言いだけな陛下に少しだけ口の端を持ち上げ、退室する。
ぱたん、と扉が閉まり、癖になったかのように、幾つめかのため息をついた。

戻ると約束した。
だから、戻らなければいけない。

そう考えて、自嘲する。
それは-----本当は、逃げ出したいと思っている証明でもあって。
再び、開かれた漆黒の瞳に、拒絶の色が合った時、自分はどうすればいいのだろう。
もう、この罪が許されないときに、どうすれば。

そう考えるだけで、喉が狭まり、呼吸が出来なくなる。
切なさに震える心臓をかきむしってしまいたい。
いっそのこと、自分の剣で喉をかききったら、どれだけ楽になれるだろう。

--------------コワイ。

嫌われたくない。
きらわれたくない。
キラワレタクナイ。

嫌いだと、言われてしまったら-----------------再び、彼を喰らい尽くすかもしれない。

胸に巣くう凶暴なケモノは、もう、我慢することを知らないのだ。
欲しいと渇望し、涙に濡れたアノヒトに陵辱の限りをつくした。
嫌だと喉が裂けるほどに叫ばれた。
細い腰を高く上げさせ、嬲るように欲望をつきたてた。
白い足は----------律動のままに、ゆらゆら揺れて。

濁った闇色の瞳。
溢れ出た白い液体。
気絶しているのに、手放せなかった---------愛しいヒト。

もう、傷つけたくないのに。
愛しくて、愛しくて、切なくて。

だけど、拒絶されたら、自分は再び、傷つけてしまうだろう。
愛しいのだ。それと同じぐらい、欲しい。自分のものだけにしたい。
心の中がせめぎあう。
あの人が笑っている顔が好きなのに。
それと同じぐらい、涙に濡れた顔がとてつもなく愛しい。
あの人を守り続けたいと思っているのに。
そのココロを暴き尽くしたいと願う。

 

逃げ出したい。

怖い。

逃げてしまいたい。

 

だけど。

 

 

「------------ヨザ」

廊下の向こうで聞き馴染んだ声がした。
その声が示す意味を理解していて、肩が揺れる。

視線の先にいたのは、先程まで、自室にいたはずのコンラート。
音もさせずに近づいてくる。
無言でそれを待つと、そっと、肩に手が置かれた。

「もうすぐで、猊下がお目覚めになる」
「……………」

静かに告げられた言葉。
ゆっくりと視線を合わすと、コンラートは小さく微笑んだ。

「逃げるなよ?」

肩をぽん、と押される。
それは決して強い力ではなかったが、足を踏み出す切欠にもなって。

歩を進める。一歩ずつ。
真っ白になる頭に、自分の足音だけが聞こえて。

 

 

背後で、優しい微笑を感じた。

 

 


すごく中途半端なところに(かくんかくん
続きを早めにあっぷしますので(ぐぐ

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070706 あずま

 

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