抱きしめる。

 

 

 

「猊下」
「うわっ」

書庫で本を漁っていたら、後ろから声をかけられた。
あまりにも気配を感じなかったから、飛び上がるぐらい驚いて振り返ると、そこにはオレンジ髪のお庭番。
驚いた僕に蒼い目を見開いて、多分、僕の肩に手を置こうとした手を上げたまま固まっている。

「なんだ、ヨザックか。驚いたよ」
「俺こそ驚きましたよ。そんなに集中して、何か探していたんですか?」
「ちょっとね」

肩をすくめて答えたが、実は探す振りして考えに浸ってしまっていただけ。
説明するのが面倒だし、探していたことも事実だから、そのまま説明を省いた。

「一緒にお探ししましょうか?」
「うん、ありがとう」

本棚に向かいなおし、目的の書物の名称を上げる。
ヨザックは任務がない時は、僕の護衛というなの雑用をしているので、この書庫に詳しくなってきている。
もしかしたら、僕より詳しいぐらいかも知れず、早く見つかりそうだ。

秋風が冬の冷たさを伴い入ってきていて、そろそろ暖房が必要だよね、なんて思いながら、本を探す。
あれでもない、これでもない、と探す指をおっていると、傍らの彼が全く動いてないのに気づいた。
彼はいつの間にかに、渋谷が心底惚れきっている上腕二頭筋を組んで、僕を見つめていた。
少し、瞳を薄め、無表情に。
その表情は普段の彼からは想像できないほど酷薄で、温かな髪の色がけしばんでいる。

「ヨザ--------?!」

疑問の呼びかけは、広い胸板に攫われた。
指先を掴まれた、と思ったら、一気に、きつく………それでも僕が苦しくならない程度の拘束力で抱きしめられる。
当然、身構えることが出来ていないので、打ってしまった鼻先が痛い。
摩ろうにも腕は絡め取られたまま。
突然の行動に、一つ文句を言おうと見上げたら、微かに荒い息が首筋にかかった。

 

あぁ、そうか。

抱きしめた謝罪もおどけるような言葉もないのは、そのせいなのか。

ヨザックはぴくり、と動かない。
普段なら、キスを仕掛けてきたりするのに。
--------------逆に、それこそが今、普段の彼ではないことを示しているから。

僕は口を閉じ、目を瞑った。
息を潜め、抗うこともせず、抱きしめ返すこともせずに。
ただ、彼が、ヨザックの気が済むまで。

 

 

どのぐらいそのままでいたのだろうか。
窓からは西日が伸びて、冬の匂いがする風が髪を嬲る。
肌寒い時期であるが、触れている体は熱い。
そして、心地よい。

「------------------------猊下」

らしくない、どこか弱い声が聞こえて、僕は笑みを零した。
見上げた先には、ばつの悪そうな青い瞳。
そっと、僕の体を拘束していた腕が外される。

「------コーヒーとお菓子」
「……え?」
「それで手をうってあげる。本を見つけたら、僕の部屋に持ってきてくれるかい?」

歪んだ眼鏡を指一つで直して、微笑を一つ。
ただ、彼の劣情を煽らないように。
僕の意図をちゃんと理解したのだろう。ヨザックはふ、と口元に笑みを浮かべた。

「わかりましたわん、猊下。グリ江、はりきってメイド----------」
「あぁ、それはいらないから」
「あぁーんvvv」

……………キショクワルイ。

女装していない姿で腰をくねらされても、口から何かが出そうになるだけだ。
見ていないことにして、踵を返す。

夕日は地に飲み込まれそうになって、空の半分が黒く染まってきている。
そろそろこの部屋にも灯りが必要だろう。廊下に出たときにメイドさんに頼まないといけない。

 

「猊下」

ドアノブを握ると後ろから声をかけられた。
先程のグリ江モードともいつものお調子な声でもない、静かな呼びかけ。
振り返ると、いつもの皮肉気な微笑み。

「大好きですよ、猊下」

おちゃらけたように告げてきた。
ただ、青い瞳だけ、深く色を滲ませて。

「うん。知ってるよ」

僕はそれだけ答えて、部屋から出た。

 

 

ぱたん、と扉を閉じて、自分の部屋に向かって歩く。

闇が支配しだした空を見上げると、月が仄かな明かりを零している。
僕は月夜を全身に浴び、口元に笑みを刻んだ。

 

「後は君次第なのにね」

 

 

僕を抱きしめられるのも、キスできるのも、君しかいないのだから。

 

 

Fin

 


片思いな抱きしめる話………難しかった(ぱたり
だって、猊下もお庭番も、隙さえあれば裏になりそうでっっ!!!
二人がらぶらぶなのはわかるから、自制してっっっ(ぁ
当初、書いていたのを全てかきなおしましたよ………(これでも

という事で、むらむらっとしたお庭番とそれを理解した猊下さんの話
正直、コンは王子としてまた指揮官として自制心を鍛えているけど、
お庭番はそうでもないだろうなって思ったことから書いた話。
で、意味のわからない話になりました(。。。

とりあえず、らぶらぶな話が書けなくなっているのを実感しました。
諦めて、イタイクライ話を書こうと思います。
ってことで次は裏(ぐぐっ

061202 あずま

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