おやすみ。

 

 

ゆらり、と灯りが揺れて、村田は本の世界から現実に意識をうつした。
時は深夜。月の灯りが世界を支配しており、動くものは闇に属するものばかり。

視線を窓に移した村田は夜風に揺れる木々を見つめ、、、、そして、扉に視線を移した。

「誰?」
「ぅをっ………ととと」

扉が開いた、と、次の瞬間には、人が倒れこんできて。
ばたん、と大きな物音が響き、そして、いてててて、と顔を撫でるもう一人の双黒の主。

「……なにをやっているんだい、渋谷?」
「てててて、……急に村田が声をかけるから……」

ベッドにクッションを集め、そこに腰掛けている村田が呆れて言うと、ユーリは立ち上がり、軽く睨みつけている。
それが照れ隠しだと気付いている村田は特に動じず、、、、むしろ、ユーリが持っている特大枕をじっと見つめている。

「………夜這い?」
「ちっ、、、、ぢがっ……!!」
「わかっているよ。だから、大声を出さない」
「むっ………」

小さく笑う村田に憮然とした表情を浮かべるユーリ。
むくれた顔は幼くて、無自覚だろう。
そんな表情を他の人間に見せたら、保護者が怒るだろうに。
ロウソクの灯りだけが灯るこの部屋は薄暗く、それが渋谷の表情を素直にさせたのだろう、と大賢者は推測した。

「で、いつまでそこに立っているんだい?」

笑いを含んだ声で話しかけると、ユーリは視線をあちらこちらに動かし、実に落ち着きがない。
それがユーリの心情を表しているのだと村田は思い、本から手を離し、ユーリ側の布団を捲った。

「どうぞ」
「…………アリガトゴザイマス」

少しの間迷ってはいたが、ユーリは枕と共にベッドに入ってくる。
小柄な二人が寝ても、まだまだ眠れそうな広い寝台。
中心に座っていた村田が少し位置をずらすと、ユーリが枕を置き、ごそごそと自分のいい寝位置を確保している。
村田は再び、手にしていた本の続きを目で追い始めた。

「………何を読んでいるんだ?」
「毒女アニシナシリーズ『死体解剖』」
「なななななななんつう濃い内容を!」
「嘘だよ」
「…………」

さらり、と言ってのけた大賢者に、当代魔王は枕に突っ伏した。
ぱらり、とページを捲る音が部屋に響く。

「渋谷」
「なんだよっ」
「寂しいのかい?」
「………っ?!」

再び、ぱらり、とページを捲る音が響く。
文字を追って、視線を逸らさない村田の顔を数秒見つめ、ユーリはふいっと顔を背けた。
頬が少し赤くなっているのがロウソクの灯りの元、顕になる。

「………笑うなよ」
「笑ってないよ」
「嘘付け、笑ってる」
「じゃぁ、笑っているよ、ははははは」
「っっっっ!!!」

がばり、とユーリが真っ赤な顔して起き上がると、村田はぱたん、と本を閉じた。
それだけで力が抜けたユーリは再び、ぱふんっと、布団に舞い戻る。

「………静かだな」
「そうだね。こっちに来て、、、、誰もいないから」

そう。
三ヶ月ぶりにスタツアした二人。
だが、出迎えたのはウルリーケで。

『申し訳ありません。今、宰相も王佐も婚約者殿も直轄領地にお戻りになられており、
 ウェラー卿は国境付近の扮装鎮圧に出かけております』

頭を垂れて大賢者たる村田に報告する。
それに対し、村田はこう判断を下した。

『まぁ、仕方ないね。本当は今回、来る予定でなかったからね。
 多分、僕たちがいない間に城から離れないと出来ない仕事をこなしているだろうから……』

肩をすくめ、続ける。

『フォンクライスト卿並びにフォンヴォルテール卿に連絡を。用事が済み次第血盟城に来ること。
 ……ウェラー卿とフォンビーレフェルト卿、どちらが城に近い場所にいるんだい?』
『恐らく、ウェラー卿かと』
『では、速攻戻るように連絡して。それまでの魔王陛下の護衛の選別を』
『わかりました』
『誰か来るまで僕も血盟城にいるよ。何かあれば報告して』

そうして、その日からもう五日たつのだ。

「他はともかくとして、ウェラー卿はさっさと戻ってくると思ったんだけどね」
「…………」

何気ない村田の言葉にユーリはぶすっと膨れる。
それを見て、村田がくすくす笑った。

「なんだよっ」
「いや………そういえば、今回のスタツアの理由が、恋人に会いたいって思った誰かさんの無自覚魔力に流されたことを思い出して」
「!!!!!」

顔どころから耳も首も真っ赤にして、ユーリは目を見開いた。何か言いたい風に口をぱくぱくさせ、、、結局何も言葉に出来ず。
枕を抱きしめ、明らかに拗ねてますオーラを垂れ流す。

「………村田もヨザックに会いたいくせにさ」

ぼそっと反撃してきたユーリに、村田は動じず、その頭を撫でた。

「明日には戻ってくるよ。だから………早く明日が来るように寝た方がいいんじゃないかな?」
「……………」
「夢の中で会うだけなのもつらいのかい?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「君は正直だな、渋谷」

くすくす笑い続ける村田に、ユーリは小さく息をついた。
布団を肩まで引き上げ、体を丸くした。
すると、村田がユーリの頭をくしゃくしゃに撫でる。
子ども扱いされているようで、ユーリは更に不機嫌になったが………

 

頭を撫でられる感触がきもちいい。
この手はいつもより小さく、やり方も違うけど。
目を瞑ると、隣にいる体温が温かく伝わってきて。

急激に眠気が襲う。
そういえば、いつ帰ってくるかドキドキしていたから、寝不足で。
頭を撫でる感触がユーリを眠りの世界にいざなう。

明日
明日会ったら、おかえり、と言って、文句を言ってやろう。
そして、困った顔になったら、だきついてみよう。

 

そんな明日を夢見て…………ユーリは眠りについた。

 

 

Fin

→おやすみ、の前に。に続く


連作(?)です。
この次はムラケン+おまけの幼馴染同士。

なんだか、双黒の二人だとこんな感じかな?って思いで書きました。
ムラユではありません
ちなみにこの話、どちらもラブラブカップルになっていますv

061113 あずま

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