いつも、夜が寒いだけあって、朝が暖かいことは無かった。
自分のものではない記憶。
だけど、確かに記憶した自分の『過去』
愉しい時もあったのに、何故か、夢見る記憶は哀しいモノばかりで。
目覚めは最悪。凍えた心は身まで染みて、朝は憂鬱な気分から始まる。

そのはずなのに………

 

 

おはよう、のその後で。〜おまけ〜

 

 

「……………どうして君がここにいるんだい……?」
「そりゃ、猊下が誘ったからですわんv」
「………」

城内が目覚めの喧騒に包まれると、さすがに意識は眠りの淵から覚醒に浮上する。
昨夜はついつい城内の資料に夢中になって眠りについたのが、もう少しで夜が開けるというその時間。
いまどきのチキュウジンとして、夜更かしは得意だったし、元々、知識欲は貪欲であったから、それを苦痛に感じることはない。
ただ、、、、、朝は苦手だ。それもチキュウジンとしては当然の事だが………

僕は胡乱げに隣で肘をついて、見上げてくるお庭番を見た。
にやにやとしまりのない笑いを口元に浮かべ、その頬をつねりたくなるほどの上機嫌だ。
横に寝ていた説明を聞くと、どうやら、僕が寝ぼけて誘ったらしい。
確かに………僕の体になんらかの痕跡が無いって事は、襲われたわけではないのだろう。
いや、キスの一つや二つはされていたかも知れないが。

「て事で〜、もう少し寝ましょう、げ・い・かv」
「……僕はニューハーフと寝る趣味は持ってないよ、ぐり江ちゃん」
「まっ、ひどい、猊下! 差別だわっ」

よよよ、とばかりに布団にとっぷしたお庭番を余所に、僕はため息をついた。
元々、僕は朝に弱いんだ。
特に夜更かしの後の朝は、僕に優しさの欠片があるはずもない。

「さ、出て行って。僕はもう少し寝るから」

可愛い子ぶって泣きまねするヨザックを、すぱっと切って、僕は彼に背中を向けて寝転んだ。
今日の執務は昼からのはず。まだまだ惰眠を貪る時間はあるのだ。

「……つれないなぁ、猊下は……」

ため息交じりの声が聞こえた。
と、同時に右腕がひかれ、肩に腕が回ってきた。
声を出す暇も無く、唇が覆いかぶさってくる。
上半身で体を抑えられ、右腕は離す代わりに顎を捕らわれた。

強引に始まったキスではあるが、優しく優しく繰り返し唇を重ねられるだけのソレで。
時折、唇の表面上を舐められ、前髪をゆっくりと梳かれると、先程までの睡魔がぶり返してきて、徐々に体から力が抜ける。
キスのセオリーで目を閉じたはずなのに、開くことが困難になってきて。

………まぁ、とりあえず、ごまかされて眠ろうか………

と、後一歩で眠りにつくという、その時。

がばり、とお庭番が起き上がった。
驚いて目を開けると、ヨザックが扉のほうを見て、微かに何か呟いた。
それを訝しげに思ったのは一瞬で、すぐに部屋の向こうが騒がしくなる。

「村田ー、おはよう!」

足音が近づいてくる、と、思ったら、すぐに勢いよく扉が開いた。
強い太陽光線を引き連れて、第二十七代目魔王陛下……友人の渋谷有利が飛び込んできた。
後ろに護衛官であり名付け親のウェラー卿もいる。。

「あれー、ヨザックじゃん。いつ戻ったの? つーか、なんでここに?」
「おはようございます、坊ちゃん。と、隊長。いえ、閣下に猊下をお呼びするように頼まれてねv」
「ふーん」

扉が開くまでにベッドから降りたヨザックがそう答える。
渋谷は素直に信じたようだが、ウェラー卿はいつもの微笑を浮かべているだけで………その笑顔を見るに、気付かれたのかも知れない。

カーテンを開けに歩くヨザック。渋谷はまだ布団の中にいる僕を呆れたように見つめ、文句を言いながら近づいてきた。

「村田ー、いい天気だぜ? 早く起き………っ」

渋谷の言葉が途切れる。
何故ならば、僕が渋谷の唇を塞いだから。
…………自分の唇で。

渋谷の胸倉を掴んで一気に引き寄せ、重ねるだけのキスを行う。
それ以上しないのは、すぐに体が引き離されたせい。
僕はいつのまにかに背後に回ったヨザックに抱きしめられ。
渋谷は胸倉をつかまれた事でバランスを崩した体を抱きとめられて。

「むむむむむむむらららたた????」
「猊下っ、突然なんていうことを」

「うるさい」

一刀両断で言い切ると、渋谷もヨザックも言葉を止めた。
僕は渋谷の胸倉を離し、ヨザックの腕をどけると、にっこりと笑って見せた。

「僕は眠いんだ。………意味がわかるかい?」
「はい、ワカリマス……」
「右にオナジク……」
「よろしい。………ヨザック。フォンヴォルテール卿の用事が何か、君なら知っているだろう? 急ぎでいく必要はありそうかい?」
「……俺は昼でもいいと思いますが……」
「よろしい。ウェラー卿」
「はい」
「フォンヴォルテールト卿に昼から僕が行くことを伝えておいてくれ」
「了解しました」
「渋谷」
「ははははははいっ」
「どうせ君の唇なんて両親と名付け親とファザコン兄貴にたらいまわしにされているんだ。気にするな」
「たたたたらいまわしっ?! それ以前に何か引っかかる言葉があった気がっ」
「気のせいだよ、渋谷。ヨザック」
「はい?」
「君はこれからそこのカーテンを閉めて、そこにおいてある書類や資料を僕の執務室に運んでおいてくれ。
君が持ってきたネタに対する書類だからな。無くさないように」
「……こんな量を……。いえ、了解しました」
「それじゃぁ…………皆、退室を」

静かに告げると、ウェラー卿はまだ目を丸くしている渋谷を促し、部屋を出た。
ヨザックはカーテンをきっちり閉め、机に置かれた資料を集め始めた。

「………ヨザック」
「はい?」

僕は自分で、自分の額に壮絶な皺が浮かんでいる事を自覚した。
ヨザックが恐る恐る振り返ったからだ。
ちょっとそんな情けない様子に噴出しそうになったが、それを覆い隠して、僕は布団を二度叩いた。

「………猊下?」
「僕は眠いんだ」
「……は?」
「だから、早く」
「………」

ヨザックの、きょとんとした顔から、ゆっくりと笑みが深まってくる。
書類を机に戻すと、素早く寝台の中に滑り込んできて、僕の体を抱きしめてきた。
嬉しそうな表情で顔を近づけてくるヨザック。
馬鹿め、僕の機嫌が悪いんだって。

「キスは禁止だからね」

にっこり、

「ええぇぇ!」
「後、僕がココに居る間は添い寝決定で」
「ぇええぇ………え………」

面白い。え、の発音が全て違う。
最初のえ、は驚きで次が喜び、そして、焦り。

「あのー、猊下? それは蛇の生殺しっていう奴では……」
「そうとも言うね。僕的には飴とムチ。調教に活用できるやり方だね」
「ちょうきょ・・・」
「……ヨザック。僕は眠いといったよね……?」
「………ハイ」
「じゃぁ、おやすみ」

ぱたりと倒れこんでさっさと目を閉じてやった。
頭の上でヨザックはどうしようかと悩んでいたみたいだが、軽く息を吐き、僕を抱きしめてきた。

 

心地よい温かみが体を包む。
それは冷えていた体を温め、心にも広がっていく。

 

 

自分の過去の記憶の凄惨さを悪夢だと思ったことはない。
ただ、

今日は夢を見そうだ。

村田健としての、ささやかだが幸せそうな夢を。

 

Fin

 

というなのおまけのおまけv

 

扉をぱたん、と、閉めると、俺は深く、それはそれは深くため息をついた。

「村田も時々、迫力ある顔するなー。と言っても、寝起きが悪いだけなんだろうケド。
 ヨザックもこきつかわれてんなー」
「まぁ、奴も愉しそうにしていますから、いいと思いますよ?」
「そうなのか?」

頭の後ろで腕を組みながら振り返ると、コンラッドが、ええ、と笑顔で返事をした。
なんだかよくわからないが、ふーん、と返事をして、廊下を歩き出す。
ロードワークを終わらせた後なので、腹が減っているのだ。
どっちかというと、ヨザックの労働事情よりそっちの方が重要なので、ちょっと鼻歌なんぞ歌いながら、食堂に歩を進めた。
真横をコンラッドが付き添う。
外はともかくとして、この周辺(つまり俺の居室や村田の寝室がある辺り)はまだ静寂が保たれており、
聞こえてくるのは兵の早朝訓練の掛け声だけ。
大きく伸びをして、曲がり角を曲がる。

そんな中、突然、コンラッドの手のひらが後頭部を包んだ。

「………え…?」

ちゅっ。

正面を見ていたはずなのに、目の前にコンラッドの顔がある。
瞳は細めて、口元には蕩けた微笑を浮かべて。

「ほら、陛下。皆、食事を待っていますから、早く行かないと」

頭から背中に手のひらは落ちてきて、さりげなく、歩を進めるように促してくる。
思わず、歩き出すが、脳味噌の回転は止まったままだ。

つーか、つかつかつかつかつかつかさ!
俺、今、何されたっ?!
むしろ、俺、村田にナニかされなかった?!?!

「………ってか、ここは廊下だーーーーーーーっ!!!!」

踏み出していた右足を止め、勢いよく360度上にも横にも見渡し、誰もいないことを確認して、名付け親をきっと睨みつけた。
幾らなんでも、そろそろきちっと言わなければならない。
親の不始末は子のセキニン。
ここは俺がびしぃぃぃっ!と言わなければ!!!
鼻息も荒く、手には握りこぶしまで作って、気合十分。
後は、この勢いのまま口を開くだけ。。。

だったのだが。

「どうしたんです、陛下?」

にこっ、にこっ、にこっ。

見上げた先には、人畜無害な笑顔を浮かべた名付け親。
からかっている、とか、してやったり、とか、いつもの柔らかい微笑でもなく。
本当に、にこっ、にこっ、にこっ、と笑顔の横に文字が書かれていそうな微笑を浮かべていた。

その笑顔に俺の気合は一気にしぼみこんだ。
それはそれはもう、コンマ以下の秒数で。

「…………陛下って呼ぶな、名付け親」
「すいません、つい、くせで」

さぁ、ユーリ、行きましょう。
そう続けて、名付け親は再び、歩くのを促すように腰に手を回してきた。
俺は軽く息をついて、食堂に歩き始める。

 

全く、何がそんなに嬉しいのだろか。

にこにこ笑っている名付け親をちらりと見つめ、俺は再び、ため息をついた。

 

もしかして、このウェラー卿コンラートという人物は。

 

 

自己中ではなかろうか?

 

 

おわり。


そろそろあずまがちゅー書くのが好きってばれる頃でしょうか?v
必ず、一度はちゅーしてます、このばかっぷるどもは(ぁ

拍手お礼小説第一弾でしたv

061121 あずま

 

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