慣れ初め

 

 

「………………………」
「………………………」
「………………………」
「………………………落ちたな」
「えぇ、落ちましたね」

 

城の中庭の片隅。
城の中心にあるくせに、目に付きやすいその場所。
双黒の王と獅子の魂を持つ従者が告白劇を行っていた。

 

……………それを覗き見する二つの影。

ユーリとコンラートから離れた茂みの下に腹ばいになって、村田とヨザックが見るからに怪しい双眼鏡らしきものを覗き込んでいた。

「さすがだね。自分の魅力を最大に使った攻撃技だね。コンポ発動ってカンジで」
「あらら、、、坊ちゃん、顔を真っ赤にして逃げていますよ。隊長、全くの手加減なしだね〜」
「渋谷も可愛そうに。ただでさえ、恋愛に免疫ないのに、あれだったら、気がついたらやられちゃっているね、絶対」
「やられ………。まぁ、坊ちゃんも、隊長の口説きたいって言葉を否定していないしなぁ」
「あれはウェラー卿の策だろ? あの後に陛下って呼んで渋谷の意識を逸らしていたし」
「あぁ、坊ちゃん………既に言質をとられていますよっ! グリ江、次に口説かれる坊ちゃんの貞操が心配だわっ!」

少し下品な事を口にしつつ、村田は追いかけごっこしている二人を追いながら、
結局、追いつかれて、何やら叫んでいるユーリと、そして、爽やかな微笑を保ちつつ、それを宥めているコンラートを見ると、
双眼鏡(ラシキモノ)をほおり投げ、ごろん、と上向けに寝転がった。

眼差しの向こうには痛いほどの青空。
白い雲がかかることで、一層、青さが引き立つ。
そうして、少し傾いた太陽は、まだ日差しが強く、村田は少し目を細めた。

「あーぁ、これで僕は失恋決定かなぁ……」
「……………ぇっ?」

隣に寝転ぶヨザックが体を硬直させた気配に気付いて、村田はくすり、と微笑を落とす。
おもむろに両手を持ち上げ、太陽に手をかざす。

「そんなに驚くことかな?」
「いえ、全く、そんな気配が無かったもので」
「そりゃ、ね。悟らせる必要はないし」

ヨザックも双眼鏡(ラシキモノ)をおろし、村田を見つめたが、彼は視線を手のひらに向けたまま言葉を続ける。
口元に微笑みも残したまま。

「と、言っても、ウェラー卿のような独占欲を持つものでもないけどね。
僕は、魔王である渋谷の為にここにいる。それ以上でもそれ以下でもないけど………
これまでの四千年は彼の為に………」

そこで村田は手を上げたまま、少し首を動かして、視線を肘をついているヨザックに向ける。
そうして、小さく微笑んだ。

「渋谷は………もしかして、もう、賢者を必要としない世界を作るかもしれない」

微笑みに全てを隠した表情に、ヨザックは村田の思考を全く読めない。
ただ、まだ温かい風にそよぐ髪と流し目となっている晴れた夜空のような漆黒の瞳が、驚くほど綺麗で。

「………寂しいとお思いですか?」
「ん? そんな事ないよ。賢者を必要としない世界、っていう事は、大賢者の願いが達成されるという事。
悲願達成。喜ばしいことだよ」

くすくすと笑う村田はまるで無邪気な子供のように。
視線を再び、空に戻して、掲げた手を太陽に重ねる。

「『太陽となりますように』
渋谷は保護者の言葉どおり、太陽になるんだよ」

殆ど独り言のような呟き。
ヨザックはぽりぽりとオレンジの髪をかく。

外見はまだまだ子供なのに、彼の発言は深い。
それは当然の事。彼は四千年の時を刻み、魂に記憶を刻印されている。

それでも……………、とヨザックは思う。

「それじゃぁ、賢者が必要無くなった日には、俺のものになってくれませんかね?」

一瞬、村田の動作が止まる。
そして、ゆっくり振り返り、ヨザックを見つめた。

「何故?」

まさか、聞き返されると思わなくて、ヨザックは口元に苦笑を浮かべた。
肩をすくめて、見つめてくる村田に答えを返す。

「そりゃ、そのままですよ。貴方が欲しいからです」
「何故、僕が欲しいの?」

………これはじらされていると考えるべきか。
だが、村田の瞳は真剣で、、、、、、、、
深遠の漆黒の瞳は、何処までも果てのない夜空のような瞳が、静かに向けられて、視線を逸らすことが出来ない。

だから、真剣に答えた。
自分の胸のうちを。

「好きだからですよ、貴方が。貴方自身が。四千年の記憶を持ちながら、今生きている、貴方が」

四千年の記憶をもつ、凛とした賢者を。
16年しか生きていない事で経験値が低くて、歯がゆく感じている少年を。
そして、そこからくるギャップを。

ヨザックの返答に、村田は目を見開き、心底驚いた表情を見せた。
本当に、虚をつかれたのだろう。
その表情は歳相応で、…………いや、幼い表情で、思わず、笑みがこぼれる。

「…………大切にしますから、俺のモノになりませんか?」

耳元に唇を近づけて。囁くような言葉を紡ぐ。
元々肩を並べて寝転がっていたのだ。
これほどの至近距離で彼の顔を見るのは初めてかもしれない、なんて、場違いな事を考えてしまった。

村田は、彼らしくなく、数秒固まったままだったが、ふ、と我を取り戻すと、
愉しそうに笑い声を零した。

「君は…………面白いな」
「………面白い、ですか…………?」

ヨザックが地面に顔をつけて、嘆いた。
本気で口説いているのに、そんな言葉が戻ってくるとは思わなかったからだ。
がしがしとオレンジの髪を掻くと、ため息をついてしまった。

「面白いよ。とても」

不意に言葉が近くて、顔を上げた、、、、、、そこに

振ってきたのは小さな唇。
地面が近いせいか、それはヨザックの唇の端に落とされて。
目を見開いたら、本当に愉しそうに笑い続ける村田がいて。
思わず、抱きしめようと手を伸ばしたら、ひらり、とかわされて。

くすくす笑い続ける村田は、立ち上がり、髪についた葉を払う。
ぽかん、と、見つめてしまうヨザックに更に笑みを深めて。

「じゃぁ、賢者が必要な間は、まだ、僕を欲しくないって事だよね?」
「いや、そうじゃなくて………じゃなく、くれるんですか、俺に?」

見上げているヨザックの真摯な瞳に、村田は少しだけ目を見開き…………微笑を浮かべた。
身をかがめ、ヨザックの耳元に囁きかける。
眼鏡の奥の漆黒の瞳を愉しげに細めながら。

「君になら、口説かれてもいいかもね」
「……………!!」
「さて、そろそろ、僕も休憩を終わらせようかな。じゃぁ、後はよろしくね」

踵を返した村田は、ひらひらと手を振り、いつものように歩を進める。
ヨザックは思わず、その後姿を見つめて…………すぐさま立ち上がった。

「さすが、四千年…………落とすつもりが、再び落とされるとは」

体の砂を払いながら、それでもヨザックは愉しげに微笑む。
そうじゃないと、面白くない。

「猊下! 一人でいるのは危ないですよーん!!」
「なら、早くおいでよ、グリ江ちゃーん!」

振り返ることもせず、歩き続ける村田に、ヨザックは駆け出した。

 

このまま、抱き上げて、部屋に攫ったら、彼はどんな顔をするだろうか?

 

 

 

Fin

 

〜おまけ〜

「なんだか、機嫌がいいよな、村田?」
「そうかい? ちょっと面白いオモチャを見つけてねv」
「んん? なになに、オモチャってなんだ?!」
「ぁ、渋谷。下唇に噛み跡がついてるよ」
「え………?  ッッッッッっってああああああああああ!!!」

 


お約束で(何
どーでもいいですが、二人とも性格が定まっていないので、色々と微妙
しかも、捏造設定まで出来ていた(汗
ちなみに賢者が必要な理由は箱があるからって事にしてます。対創主用(用?

とりあえず、ここのコンユー・ヨザムラはこんな関係から始まっちゃったりします。

061101  あずま

 

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